1950年代~70年頃にかけてロンドンを中心に活躍し、円熟した演奏を聴かせた名指揮者、オットー・クレンペラーをご存知でしょうか。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AF%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%83%9A%E3%83%A9%E3%83%BC この指揮者の演奏は、クラシックをかなり聴きこんだいわゆる玄人好みの演奏でして、慣れない人が聴くと「なんでこんなに無造作なんだ?」と不思議に思うのではないかと思います。とにかくぶっきらぼうな演奏ぶりに、甘い演奏を聴き慣れた人にはなかなか良さが伝わりにくい演奏家です。 耳に心地よい甘い演奏というのは、たとえば雄弁で聴きどころ(ツボですね)をわかりやすく強調して、きれいなところはより美しくゴージャスにしたてた演奏のことです。 クレンペラー翁の演奏はまったくこの逆でして、曲を演奏するという行為から作為的な演出を排除し、ついでに曲にまとわりついたイメージをゴミ箱にポイしてしまった、といえばわかりやすいかと思います(わからん)。 たとえばこんな感じ。 クレンペラー翁は今日も孫から絵本を読んでくれとせがまれました。いつも難しい顔できつーい皮肉を言う翁といえども孫を無視するわけにはいきません。孫の手渡した絵本を一瞥した翁は、おもむろに絵本を読み始めました。 ところが読み始めてすぐに孫は後悔しました。翁の読み方が大真面目でしわがれ声なので、楽しいはずの絵本の内容がすっかり「マタイ受難曲」みたいになってしまったのです。 そんな孫の落胆に気づくこともなく翁は、ときおり変な間をあけつつ、クライマックスの盛り上げをあっさり無視して絵本を読み終わりました。翁は孫にむかってこう言いました。 「うむむ、くだらん実にくだらん絵本だ。だが、こことここは読むべき部分がなくはない」 こんな大真面目に読んでくれと頼んだ覚えはない孫は、あいまいにうなづきつつ、もうひとつ頼もうと思っていた絵本を戸棚に返したのでした。 ところで現代にはクレンペラーのような恐い翁は世の中からすっかりいなくなってしまいましたね。同時に高齢者に対する畏敬の気持も忘れてしまったように思います。
by ikunosange
| 2009-06-22 12:48
| 日々思うこと
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